京都大学大学院農学研究科 21世紀COEプログラム 昆虫科学が拓く未来型食料環境学の創生pic
-EnglishHomeアクセスリンク内部連絡サイトマップ

ニュースレター

ニュースレター
NO.1 (May 23, 2005)
はじめに

21 世紀COE プログラム「昆虫科学が拓く未来型食料環境学の創生」が昨年7 月に採択決定されて以来、あっと言う間に10 ヶ月ほどが過ぎました.その間、既に多くのプログラムが実践に移され、日常的なセミナーはもとより、国際シンポジウムまで開催することができたことは、誠に喜ばしい限りであります.本プログラムのキーワードの一つは、“融合”であります.既存の縦組織の中では分野横断的な教育・研究活動はなかなか困難でありますが、COEのプログラムはそれをブレークスルーする重要な契機を与え、計り知れない教育・研究上の効果をもたらしつつあります.本年度はさらにこのことを促進するためのさまざまな教育と研究のプログラムが計画されております.それらプログラムの一つ一つがしっかりと記録され、その効果が検証されなければならないことは言うまでもありません.このような目的のために、本プログラムのウェブサイトにおきましてNews Letter を発行することにしました.このNews Letter が異分野間の融合の場として活用されることを願ってやみません.
(拠点リーダー 藤崎憲治)

〜国際シンポジウムを振り返って〜

国際シンポジウム2004 年7 月21 日に21 世紀COE プログラムに本課題の採択が決定され,9 月15 日にグループ全体の初会合がもたれた.そこでは,年度内に国際会議を開催することは難しいのではないかという意見もあったが,本課題は2004 年(3年目)に京都大学から採択された唯一のCOE プログラムであること,“昆虫科学が拓く未来型食料環境学の創生”というフィールド研究から分子レベルの研究にまでおよぶユニークで革新的なものであること,さらに農学研究科としては2つ目のより幅広い異分野融合的COEプログラムであることなどを踏まえ,開催に躊躇していてはいけないとの積極的考えに至り,国際シンポジウムを企画することになった.しかしながら,準備時間の短さは否めず,全分野の研究を網羅するような総合的なシンポジウムの企画には無理があり,昆虫に特有な生理機能である“脱皮と変態”に焦点を絞ることにした.実は,変態という現象は陸上の昆虫だけでなく“魚類”をはじめとする多くの海洋生物にも見られることから, これら融合を目指して,”Development and Metamorphosis”という主題のシンポジウムを開催することにした.さらに,異分野間での融合の出発点として,全分野が一同に会し,お互いにそれぞれの研究を理解するため,大学院生中心のポスターセッションが企画された.教育的見地から,このポスターセッションは学生主導で行うことを意図した.各分野3-4 のポスターをお願いしたところ,12 分野で50 のポスター発表の申し込みがあった.準備期間が短かったことから,いろいろ行き届かない点が見られた.特に,2月から3月にかけては,学生の卒業論文・修士論文の発表,大学入学試験などが集中するため大学にとっては多忙な時期であり,開催日程の設定に苦慮したが,準備時間の都合上,最終的には前期と後期の入学試験の間に開催することが適当と判断された.年度末の多忙な時期であるため,当初は学外からは多くの参加が見込めないと判断され,75 人程度の規模で企画を進めたが,実際にふたを開けてみると,当初予想していた参加人数をはるかに上回り,準備していた要旨集(120)は不足した.最終的には2 日間で150人の参加があった.

Youson教授
Youson教授

1日目(3 月2 日)は9 時半に情報伝達グループの森直樹助教授が開会宣言をしたのち,COE 拠点リーダーである藤崎憲治教授からこのプログラムの趣旨に関して挨拶が行われた.直ちに,環境適応グループの田中克教授が,シンポジウム1日目の“魚類の変態”について導入的な話を行い,続いてカナダ,アメリカ,日本の3人の研究者による講演が行われた.2日目は情報伝達グループの中川好秋助教授が,“昆虫の脱皮と変態”に関して話題提供を行ったのち,アメリカ,カナダ,フランス,ベルギー,ギリシャ,日本の6人の研究者が,最新の研究を紹介した.講演者の国籍は多様で,また,女性の研究者が1/3 を占めていた.午後は,約3 時間のポスター発表を行ったのち,懇親会が開かれた.まず,高橋強農学研究科長から歓迎の挨拶をいただいた後,昆虫関係から若手と女性研究者を代表してBillas 博士に挨拶をお願いした.つづいて魚関係の代表として最も経験を積まれたYouson 教授に乾杯の発声をお願いした.シンポジウム1 日目には,変態現象は陸上生物のみならず水中生物にも多くみられること,無脊椎動物だけでなく脊椎動物にもみられることより,ここでは魚類に焦点を当て,変態現象の進化や内分泌機構について3 題の講演が行われた.最初の講演では,魚類の変態生物学の第一人者であるカナダトロント大学動物学教室のJ. H. Youson 教授より,最も原始的な魚類と位置づけられる円口類(ヤツメウナギ類)の変態現象に関わる様々な要因の分析を通じて,魚類の変態は多様な分類群で独立的に生まれたとの話題が提供された.続く2 つの講演は,片方の眼の移動や体の左右不相称化など極めて特異な変態を行う典型的な変態性魚類としての異体類にスポットが当てられた.アメリカ産ヒラメ(サマーフラウンダー)については,ロードアイランド大学海洋科学部J. L.Specker 教授が,日本産ヒラメについては京都大学フィールド科学教育研究センター田川正朋助教授が,変態を誘導制御するコルチゾルや甲状腺ホルモンの役割と作用機序について最近の研究成果を紹介した.

懇親会
懇親会
シンポジウム2 日目には,昆虫の脱皮変態にかかわる脱皮ホルモンと幼若ホルモンのinvivo からin vitro にわたる作用が紹介された.内容的には,分子生物学や構造生物学に関する話題が多く,やや専門性が高くなり,聴衆が少なかったのは残念であった.午前中は,脱皮ホルモン類の生理作用について,ベルギーゲント大学のGuy Smagghe 教授が講演し,つづいて,ギリシャ国立研究所DMOKRITOS のLucSwevers 博士によってレポーター遺伝子を使った脱皮ホルモンのアッセイ系についての講演が行われた.午後は,弘前大学の比留間潔教授により, 脱皮ホルモンで誘導されるtranscription factor によるdopadecarboxylase 発現制御メカニズムが紹介された.次の講演者は,脱皮ホルモン受容体のリガンド結合部位の結晶化に成功し,X-線結晶構造解析によってリガンド結合様式を解明したIsabelle Billas 博士(フランスIGBMC)で,この成果は2003年Nature に発表されている.彼女の講演終了にあたり,リガンド分子が受容体の結合部位に接近しドッキングする様子がコンピューターのムービー機能を使って示されたのは印象的であった.続いて,アメリカケンタッキー大学のReddy Palli 博士が脱皮ホルモンと幼若ホルモンの関係について話をし,幼若ホルモンが結合するタンパク質に関しての知見が述べられた.最後の講演者としては,当初Xioafeng Zhou 博士(中国)による幼若ホルモン関連の話を企画していたが,どうしても来日することができなくなり,急遽Zhou 博士と同じ研究室のポスドク研究員であるChristen Mirth 博士(カナダ)に講演を依頼することになった.講演の内容は脱皮ホルモンの分泌腺である前胸腺の大きさと変態の関係に関するもので,2日目の昆虫関連分野の講演はin vivo の内容で始まった講演が,分子レベル(in vitro)の話に移り,最終的にin vivo の話で結ばれる形となった.講演終了のあと,昆虫と魚の話題を“変態”というキーワードで融合させたシンポジウム開催主旨が生かされるように,Palli 博士を座長にしてオープンディスカッションが企画された.すなわち,講演者全員に前に座っていただき,学生から講演者に対して自由に質問してもらう時間を設けた.最初30 分程度を考えていたが,1時間程度にまで及んだ.多くの大学院生にとっては,このような異分野融合的な討論の経験が少なく,また英語で質問することへのためらいから,発言は十分ではなかったが,そうした能力を身につけることが研究者として極めて重要であることを強く感じる機会になった.

パネルディスカッション
パネルディスカッション

2日間のコンパクトな国際シンポジウムであり,反省すべき点も多々みられたが,生命現象の多様性と共通性を考え,新しい学問領域を創生する出発点の取り組みとしては十分意義があったと総括される.とりわけ,異分野の大学院生が相互の研究内容や研究への思いを交流したことは,今後の本プログラムの展開に大きな示唆を与えるものとなった.
(農学研究科応用生命科学専攻 中川好秋・フィールド科学教育研究センター 田中克)

昆虫関係の招待講演者
昆虫関係の招待講演者
学生からの一言

シンポジウム
21 世紀COE プログラム「昆虫科学が拓く未来型食料環境学の創生」第一回国際シンポジウムの 2 日目にあたる3 月3 日には,昆虫の成長と変態をテーマに講演会が行われました.脱皮や蛹化,羽化に代表される昆虫の成長過程の,分子的なメカニズムの研究の第一線で活躍されている,国内外の6 人の先生をお招きして,基礎的知見から最新の研究まで,昆虫の個体レベルでの変化の観察から体内のタンパク質の分子レベルでの解析に至る幅広い内容で講演をしていただきました.私は現在,昆虫の成長をコントロールする脱皮ホルモンのアゴニストの,昆虫種間での作用選択性について研究しており,この分野の第一人者として著名な先生方のお話を直接聞くことができて感動しました.また,最新の研究の実際をかいま見ることができて大変刺激的でした.特にBillas 博士の講演では,天然型と非天然型の脱皮ホルモンアゴニストが結合したそれぞれの受容体のX 線結晶構造解析についてお話があり,非天然型脱皮ホルモンアゴニストの昆虫種間選択性と受容体結合様式との関係が示唆されて,非常に興味深い内容でした.今回のシンポジウムは私にとって良い勉強になり,また海外の研究者との情報交換の重要性を強く感じました.今後もこのような会が継続的に開催され,研究の進展とともに海外の研究者とのコミュニケーションもより活発になればと考えます.
(生物調節化学分野 小倉岳彦)

昆虫類の個体発生を最も特徴付けているものの一つが幼生から成体への「変態」であるとするならば,その多くが同じく仔魚期から稚魚期に「変態」いう発達過程を経る魚類は,ある意味で「昆虫的」な個体発生をする脊椎動物だといえます.今回のシンポジウムでは魚類の変態を軸にした3タイトルの講演が行われました.Dr. Youson の講演はヤツメウナギ類における異時的な変態が進化および分散に重要な役割を果たしたと論じ,進化的,環境適応的戦略としての変態を考える上で非常に興味深いものでした.またDr. Specker はサマーフラウンダーというヒラメの近縁種の発達と変態に関わる内分泌機構を総説されました.ヒラメ,カレイなどは異体類とよばれ,変態する魚類の中でもとくに劇的で興味深い形態変化を遂げます.仔魚期には左右対称のスタンダードな魚の形をしていますが,変態期になると目が片側に移動し,左右非対称な体の構造になります.Dr. Tagawaは異体類の変態に伴う左右非対称な形態形成の具体的な仕組みについて,内分泌学的な面からの考察を報告されました.いずれの講演とも環境適応,情報伝達,構造機能というグループテーマに沿った内容であり,「新しい昆虫科学」の出発にふさわしい講演だったと思います.特に魚類以外の研究者にとって示唆深いものになったのではないでしょうか.自身を含めての反省であるが質疑応答がもっと盛り上がればなおよかったと思います.
(河口域生態学分野 渡邉薫)

ポスター発表
今回のポスター発表は,同じCOE プラグラムを推進している研究グループとはいえ,お互いの研究を深く知ることのなかった我々にとって,非常に新鮮でした.特に,化学生態学のポスターでは,私たちと同じく節足動物を研究材料としその行動に影響を与えている化学物質の同定・解析,生物試験を行い,興味深い結果が多く得られているのが分かりました.私の研究や,昆虫生態学研究室の院生にとっても,役に立つ部分が多くあるように感じられ,今後お互いの得意分野を生かした新しい研究ができるのではないかと思えました.森林生物学のポスターでは,今問題となっているナラ枯れの原因のカシノナガキクイムシのブナ科植物への定着について詳しく教えて頂きました.また,種間交雑により危機に瀕しているキブネダイオウの研究は,保全生態学の見地から非常に重要と感じました.ナラ枯れに関しては森林環境情報学のポスターにおいても,森林保全の見地から触れられており,今後ナラ枯れについてもっと勉強していきたいと考えています.そのため,今後開催されていく異分野のセミナーや講演会などのプログラムなどにも積極的に参加していきたいと思います.今回,いつもと異なる集団でプレゼンテーションを行えたことは非常に刺激的で有益であったといえます.
(昆虫生態学分野 嘉田修平)

ポスター討論会
ポスター討論会
ポスター討論会
3月2日のポスター発表で生態情報開発学分野からは,私を含めて3人が発表しました.生態情報開発学研究室は農作物の害虫であるハダニとその天敵のカブリダニが主な研究材料ですが,私の研究材料はハダニやアザミウマ,アブラムシなどの天敵であるヒメハナカメムシなので,今回のポスター発表は "Overwintering strategy and matingbehavior of Orius species"(ヒメハナカメムシ類の越冬戦略と交尾行動)というタイトルで行いました.私にとってポスター発表をしたのはこれが2回目でした.ポスター発表は一度やっていたので,比較的楽にポスターをつくれたのですが,今回は英語のポスターだったので,海外の方に英語で上手く説明できるかどうかが心配でした.午後2時,発表が始まりました.発表には英会話教室の知り合いの人や,3年くらい会ったことのなかった学部の頃の知り合いなど様々な分野の人が来てくれて,いろんな感想や指摘をしてくださり,今後の研究を進めていく上でよい刺激になりました.発表が終わって,他の人のポスターをみてみると,昆虫や節足動物を使って自分達とは全く違った観点から研究しているものや,昆虫は使っていなくても同じような観点から研究されているものなど,興味深い研究がありました.今回,残念ながら私は海外の人に英語で説明する機会はありませんでしたが,他の研究室には英語で海外の人に自分の研究を説明するよい機会を持てた人もたくさんいたようです.
(生態情報開発学分野 小林岳雄)

学生主体で行なったポスター発表の目的は,互いに分野の異なる研究を理解し合い,分野の垣根を越えて研究の融合を図ることでした.私が所属するグループは,昆虫の情報処理や行動に関わる研究を行っている研究室と農業機械やロボットに関する研究を行っている研究室からなります.実はこれまで,互いにほとんど面識はなく,最初は挨拶程度の話しかできていませんでした.しかし,割合長い時間が設けられていたことも幸いして,次第に互いの考え方や目的にまで議論は発展しました.たとえ持っている技術に共通する所があっても,考え方の違うもの同士が理解し合うことは一筋縄にはいかないですが,その過程は非常に印象的でした.学生が主体で行なったこのポスター発表は成功だったと思います.今後のことを考えると必要不可欠でした.ぜひこの機会を出発点として,異分野の「融合」を形あるものにしたいです.
(昆虫生理学分野 小嶋健)

講演会およびセミナー開催内容
第1回COE 昆虫科学セミナー 「侵入昆虫の生態リスクと外来生物法(五箇公一博士)」(2004 年10 月30 日)
第2 回COE 昆虫科学セミナー 「Greenhouse Biological Control in the Northeastern U.S. (Suzanne M. Lyon)」(2004 年11 月15 日)
第3 回COE 昆虫科学セミナー 「昆虫のキノコ体の慢性記録と運動制御における脳の基本設計(岡田龍一博士)」(2004 年11 月27 日)
第4 回COE 昆虫科学セミナー 「Environmental Pollutants, Inflammation and Human Diseases. Is there aconnection?
(Prof. Fumio Matsumura)」(2005 年 3 月10 日)
第5 回COE 昆虫科学セミナー 「Cytochrome P450 from Multiple Insect Genomes:From Phylogeny to Function
(Dr. Rene Feyereisen)」(2005 年 3 月11 日)
第6 回COE 昆虫科学セミナー 「Functional morphology of wing locking mechanisms in Heteroptera. (Dr. Perez-Goodwyn, Pablo) 」
「Seasonal and daily biological clocks in insects. (Dr. H.V. Danks) 」
「How insects modify adverse habitats. (Dr. H.V. Danks)」(2005 年 3 月12 日)
第7 回COE 昆虫科学セミナー 「寄生蜂の学習と寄主・餌探索機構(高須啓志 博士)」(2005 年 5 月21 日)
第8 回COE 昆虫科学セミナー 「みどりの香りとピレトリン」−およそ50年の研究から−
(畑中 顯和 山口大学名誉教授)」(2005 年 5 月27 日予定)
第1回学生セミナー
COESS(COE StudentSeminar)
「社会性昆虫における自他の識別」〜アリの「同巣識別フェロモン」識別機構の解明〜
(勝又綾子 COE 博士研究員 化学生態学分野)(2005 年5 月17日)

お知らせ
第2回国際シンポジウム「昆虫科学が拓く未来型食料環境学の創生」を10 月31 日(月)から11 月2 日(水)まで3日間にわたって芝蘭会館にて開催予定.

============================================================================
発行元:昆虫COE 事務局
問い合わせ先:
京都大学大学院農学研究科応用生命科学専攻化学生態学分野(TEL 075-753-6307)

page top