京都大学大学院農学研究科 21世紀COEプログラム 昆虫科学が拓く未来型食料環境学の創生pic
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ニュースレター

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NO.2 (Sep 16, 2005)
第1回昆虫COEフィールド教育プログラム実施報告

森林構造の解説
森林構造の解説
本COEには農学研究科の8分野、フィールド科学教育研究センター(以下、FSERC)の4分野が参画している。その研究内容や手法は多岐にわたり、本COEがきっかけとなって異分野にまたがる融合的な研究が促進されることが期待されている。また、「昆虫COEフィールド教育プログラム」として、森林から海に至る豊富なフィールドを活用した実体験型の教育を計画している。今回、その第1回を7月9日・10日の2日間にわたり芦生研究林にて実施すべく企画した。関連分野の4回生・大学院生を対象に参加を募集したところ、16名の応募があり、これにスタッフ等を加えて総勢28名の参加となった。

プログラムのタイトルは「芦生の森の樹木をめぐる植食者たち」。芦生研究林で行われている森林昆虫や動物、その餌となる樹木を対象にした研究について、現地で対象生物を観察しながら紹介する形式で行った。現地での説明は森林生物学分野とFSERCの教官・大学院生が担当した。

1日目のプログラムは午後から開始。13時、芦生研究林の事務所をマイクロバスで出発し、研究林の5林班斜面を見渡せる位置で下車。FSERCの森下君による研究林の森林構造の概説からスタートした。その後2班に分かれて林道沿いに幽仙橋付近まで徒歩で下りながら、研究林の森林を構成している多様な樹種の見分け方や樹木の生長・繁殖様式についての解説を行った。解説には森下君と森林生物学分野の石原さんがあたり、あいにくの雨ではあったが参加者全員雨合羽を着て熱心に説明を聞いていた。

樹木の生長・繁殖様式の解説
樹木の生長・繁殖様式の解説

森林をフィールドにして研究を行う場合、その場所に生育している樹種が判別できないことには話にならない。また、例え研究対象が昆虫等の樹木の植食者であっても、樹木側の性質も無視できない重要な要素である。特に生長様式等は植食者による摂食のパターンに直接影響を及ぼすと考えられる。そういうわけで、今回のプログラムでは樹木そのものの解説にかなりの時間を割いた。

3時間ほど歩いたところで、幽仙橋に到着。ここで、私が行っているナラ枯れの調査について紹介した。ナラ枯れとは、カシノナガキクイムシが運ぶ菌類が原因でブナ科の樹木が集団枯死する現象のこと。芦生研究林では2002年に初めて確認されて以来、ミズナラを中心に被害が拡大している。調査プロットでは、単木レベルでカシノナガキクイムシの飛来数を計数するために粘着トラップを樹幹に設置してある。このトラップにはり付いたカシノナガキクイムシを参加者に観察してもらいながら、養菌性キクイムシである本種の生態や、飛来穿孔パターンにみられる樹種間の相違等について解説した。当初は、急斜面に設定してある調査プロットに参加者全員上ってもらい、キクイムシの穿孔穴やフラス等観察してもらう予定であったが、雨のため斜面が滑りやすく、取りやめた。マイクロバスで下山し、1日目のプログラムを終了した。

キクイムシの観察
キクイムシの観察

2日目は雨も上がり、時折日が差すほどの好天に恵まれた。午前中は森林生物学分野の高柳講師に、ツキノワグマによる樹皮剥ぎ(以下、クマ剥ぎ)とニホンジカによる樹木の食害について詳しく解説して頂いた。

林道よりクマ剥ぎ被害林分を望む
林道よりクマ剥ぎ被害林分を望む
まずは林道から、クマ剥ぎの被害が激しいスギ人工林を遠望。クマ剥ぎとは、ツキノワグマが樹木の樹皮を剥ぎ、幹を囓る行動のこと。何故ツキノワグマがそのような行動をとるのか、明確な答えはまだ得られていない。主にスギで被害が見られ、剥皮の程度が激しく枯死してしまう個体も多い。剥ぎ跡の唾液や毛からのDNA採取等、クマ剥ぎに関して現在研究林で行われている研究について解説して頂いた。続いてマイクロバスで移動。欅坂では、クマ剥ぎ防除の目的で行われているテープ巻きの解説。宮ノ杜では、ニホンジカによるミズキの樹皮の食害や、アカシデ等にみられる枝折り被害を観察。ニホンジカによる食害も研究林では無視できない問題である。また、人工林の斜面に参加者全員上ってもらい、クマ剥ぎ被害木を間近で観察。樹皮の剥ぎやすさの測定方法や匂い成分の採取方法などについて解説して頂いた。

宮ノ杜からマイクロバスでモンドリ谷入口へ。ここでは、イヌシデの芽に虫えいを形成するフシダニについて、その生態や分散様式等、林道沿いのイヌシデ上の虫えいを観察しながら私が簡単に紹介した。

クマ剥ぎの解説
クマ剥ぎの解説
昼食後、モンドリ谷の固定調査プロットへ。面積16haの本プロットでは1992年より5年ごとに、胸高直径10cm以上の樹木についてその直径の測定が継続して行われている。ここで研究を行っているFSERCの岡田君に、本プロットにおける調査の概要、斜面上部と下部で植生が異なる事等解説してもらった。このあたりもナラ枯れの被害が激しく、フラスまみれのミズナラの巨木が観察された。また、台風による倒木も見られた。このように林冠を形成しているような樹木が枯れるとギャップが形成され、下層の光環境が改善される。そのような場所で起こる樹木の更新や、樹木の生活史等についての解説(担当、森下君)をまじえながら、杉尾峠まで上谷を散策した。

モンドリ谷にて
モンドリ谷にて
杉尾峠からマイクロバスで移動。研究林ではブナやミズメの高木を対象に、樹木を取り囲むようにして樹冠観察用タワーを設置してある。林冠を形成するような高木では、樹冠の位置によって環境が異なり、葉の性質にも変異が見られる。この事は葉を利用する植食性昆虫にも影響を及ぼしていると考えられる。ブナ樹冠内における植食性昆虫による被食レベルの変異を調査した研究について私が解説した。

その後、参加者それぞれ安全具を装着して高さ約15mのタワーの最上層へ。天気がよければ日本海も望める最上層では、ミズメを対象に行っている樹木の豊凶に関する研究について、石原さんに解説してもらった。ミズメでは3年周期で豊作が観察される。その豊凶のパターンは枝の伸長様式と密接に関わっており、前日のプログラム内での樹木の生長様式の解説もふまえ、参加者との間で活発な議論が交わされていた。

樹冠観察用タワーにて
樹冠観察用タワーにて

安全具を人数分用意することができなかったので数人ずつ交代でタワーに登ることとなり、予想外に時間がかかってしまったものの、参加者の皆様には樹冠研究の醍醐味を味わっていただけたかと思う。

最後にマイクロバスで幽仙谷へ。幽仙谷でもモンドリ谷と同様に、固定調査プロットが設置してある。ここでFSERCの中島講師に、プロット内に設置してある量水堰堤にて流出水量等物質移動についての解説をして頂き、本プログラムを終了した。

今回のプログラムは、森林をフィールドとして行われている研究について現地で対象生物を観察しながら解説し、その手法を視覚的に理解してもらうというのが目的の一つであった。その目的は達成したように思う。普段実験室内での研究が主な学生には、野外でのサンプリング方法や高木の調査方法など、室内のプレゼンテーションではなかなか伝わらない部分を伝えることができ、異分野の研究に対する理解を深めてもらえたのではないだろうか。このプログラムへの参加が異分野間の融合的な研究へのきっかけとなれば幸いである。

1日目はあいにくの天気だったが、怪我や事故もなく無事に2日間のプログラムを終えることができた。これもひとえに芦生研究林スタッフの方々の御協力があってこそである。ここに記して感謝の意を表したい。
(農学研究科森林科学専攻 山崎理正)

宮ノ杜にて集合写真
宮ノ杜にて集合写真

プログラムに参加した学生より

■今回芦生に行ってまず感じた事とはその自然の豊かさであった。京都市内から2時間弱で あのような自然を味わえることにとても感動した。生態に関連する分野に属する者としてフィールドにはなじみがあるのだがそこでの視点は常に研究している材料に向けられており、ゆっくり森を眺めてみることもなかった。そのため今回のプログラムにおいての樹種の紹介や森林の構造の説明はとても有意義であったし、森への興味も深まった。

クマの樹皮剥ぎによる杉枯れ、シカの食害、カシノナガキクイムシによるナラ枯れ被害に関しても、芦生の森の豊かさとの対比によってその事態の異常さが伝わってきた。特にクマの樹皮剥ぎについては、芦生などの一部の地域に限定された現象であることや、その発生する理由、背景などとても興味深いものがあった。

今回のプログラムは芦生に初めて行った自分にとっては非常に有意義だったが、予備知 識を入れておけばもっと理解を深めることができたとも思う。事前に今回のプログラムに関連した講義などがあればよかったのかもしれない。
(昆虫生態学分野 川津一隆)

■7月9〜10日、第1回昆虫COEフィールド教育プログラム「芦生の森の樹木をめぐる植食者たち」が京都大学研究林(芦生研究林)で行われました。

1日目は、マイクロバスで研究林内の幽仙谷という場所まで行きました。あいにくの雨天でしたが、雨の中の森の空気というのはなんとも言えない心地いいものでした。そこで、芦生の森の気候区分および植生区分について説明していただいた後、徒歩で下山しながら、森の木々について説明していただきました。短い区間に非常に多くの種類の植物が生育していることに驚きました。また、雨の中、熱心に説明していただいたスタッフの方が印象的でした。

2日目は、前日の雨も止み、雲の間から晴れ間がのぞいていました。この日は前日よりも森の奥へ入り、急斜面を登ったり沢沿いを歩いたりしながら樹木への動物被害について説明していただきました。人の手が入っていない森の奥は幻想的で感動しました。また、この日は一日中森の中を歩いたこともあり、日頃の運動不足を実感する良い機会となりました。

今回、2日間に渡って行われたプログラムは、フィールドに出ないで研究を行っている私にとって非常に有意義で、かつ刺激的なものになったと思います。
(生物調節化学分野 花井陽介)

■研究と称してクーラーの下から一歩も動かない私にとって、今回の企画は、フィールドの研究者と交流を深めるだけでなく、その研究生活の一端を垣間見る貴重な体験となりました。

初夏の芦生は木々の若葉がとても色鮮やかです。1日目はあいにくの雨でしたが、FSERCの森下さんの先導で林道を歩いて下りながら、木の名前や特徴を興味深く紹介して頂きました。素人目には同じように見える木でもまるで科が違ったり、面白いのは、枝振りや生え方を見るだけでその木の生存戦略までわかるのだそうです。昆虫の研究でも、たとえば前脚が長いとかいう特徴をあげて生存に有利だ不利だという話をしますが、ここでは、同種の木でも生えている場所の条件(傾斜・明るさ・積雪量など)によって戦略が異なっていて、それが枝の伸び方に現われるという話です。広大な演習林の中から樹木を一本一本、それも枝先や陰日向の差まで見分ける研究に感心しました。

ところで、私の勝手な思いこみですが、フィールド研究者というのは経験豊かで逞しいというイメージがあります。女性でも単独で調査に出かけるという石原さんと話していて、万が一、山中で遭難した時にはどうしたらいいのか、谷へ下った方がいいのか尾根に登った方がいいのか、食べ物はどうしたらいいか、つい好奇心から聞いてみました。どこへ向かえばいいかは状況により異なるようですが、今ぐらいの夏期には食べ物がほとんど無いのだそうです。雪に覆われる冬場はともかく、これほど緑あふれる夏に食べ物が無いというのは意外ではないでしょうか。それでふと私の頭に浮かんだのが、昆虫でよく見られる寄主選択の話です。すぐ隣にはおいしそうな葉が揺れているのに、丸裸になった枝の先で茫然と佇む芋虫を時々見かけます(実はこの日も、ヌルデの葉を食べ尽くした一行に遭遇しました)。彼ら‘スペシャリスト’は、自分の餌とする植物を限定しそれに適応的に特化することで生存能力を高めてきた、と言われていますが、同じ場所に産みつけられた兄弟が多過ぎて餌を食べ尽くしてしまったり、学生がその辺に生えている適当な雑草を飼育容器に放り込んでいると、彼らはハンガーストライキよろしく餓死していくわけです。何故食べてみないのか、というのが寄主選択の謎の一つなんですが、それと同じで、我々も食べてみる気になりさえすれば、芦生中の緑を食べられるんじゃないか……と冗談半分に考えてみました(もちろん、毒草は選り分けられたとしてです)。

これができれば、昆虫科学からヒントを得た未来型食糧環境学ができちゃったかもしれませんが、残念ながら不可能であることが、クマの皮剥ぎ問題に移ったところで早くも証明されてしまいました。

近年芦生では、ツキノワグマがスギやヒノキの樹皮を剥ぎとって中の幹を囓り、その結果、立木を枯死させる問題が起きています。高柳先生の話では、これは餌が不足する夏場に見られるが、食べたところでクマにとって栄養価が高いわけではない、と最近の研究でわかってきたようです。おそらく、クマは何年もかけて食べられる餌を研究してきたのだと思います。もしかすると、芦生中の葉を囓ってみたかもしれません。その上で、スギの皮を剥いでわずかばかりの糖分を獲得する方法に辿り着いたということであれば、我々人間はここでは大人しく餓死するしかないのでしょう。クマみたいに立派な爪がないと皮剥ぎは無理そうでした。因みに、高柳先生が七つ道具で皮剥ぎを実演して下さった際に、樹皮の内側を失敬して囓ってみましたが、糖分どころか渋くて固くてとても食べられたものではなかったです。

クマの皮剥ぎ、シカの皮剥ぎと、その惨状を見るにつけ不思議なのは、たったわずかな栄養分を摂取するだけで巨木をまるごと一本枯らせていく方法は、果たして長い目で見て種全体に有利なのか、という点です。これはカシノナガキクイムシが起こすナラ枯れでも言えることで、こちらは木そのものを餌にするわけではなく、木に植菌してその菌を食べるのだそうです。農業文化をもつ昆虫というのは非常に面白いと思いますが、枯れて土に還るバイオマス全体に対して、彼らが利用したのはほんの数パーセントにすぎません。こういう非効率的農法は、しかしながら、もう少し高等な霊長類でも大々的に行われている気がします。昆虫に模倣するサイエンスも重要ですが、昆虫を見て我が身を省みる科学、というものがあってもいいかもしれません。

今回のプログラムのクライマックスでは、樹冠研究のためのタワーに上らせて頂きました。ミズメの高木の周囲に、工事現場で見かける鋼製の足場を組んだもので、最上階は命綱を繋いでもなお足が強ばる高さでした。この日は霧が出てきたので残念ながら見晴らしはよくなかったのですが、天気のいい日に下界を眺めつつ風に吹かれて観測するのはさぞ気持ちいいだろうと思います。これがフィールド研究の醍醐味というものでしょうか。有機溶媒にむせながら、紙切れ一枚のデータに一喜一憂する私の研究生活に比べると、この差は何なのかと思います。ところが一方では、フィールドワークの宿命というか、生態学という研究分野の難しさもここにあるようです。例えば木の成長を見る研究だと、2年がかりで2点しかプロットできないし、5年周期の現象を追うとなれば10年頑張ってもたった2反復、という話を聞いて、そんな馬鹿なと笑ったのですが、実際、それに近い心境になることもあるそうです。自分の研究だったら笑えないですね。半年頑張って結果が出なければ他を当たれと私の教官も言います。生産効率をあげてリスクを減らす、限度があるとはいえそれが可能なのは、ラボでの研究の長所であり短所なのかもしれません。

3月のシンポジウムで互いに研究内容を紹介し理解しあったつもりでいましたが、こうして足を運んでみると、研究のスケールの違いを実感しました。また、客観的に自分の研究を捉える機会にもなったと思います。今回は20名という定員があったこともあり、ほんの一部の学生しか参加できませんでしたが、こうしたプログラムを増やすことでより多くの学生にこの感覚を味わってもらいたいです。
(化学生態学分野 吉永直子)

講演会およびセミナー開催内容
第8回COE昆虫科学セミナー 「みどりの香りとピレトリン」−およそ50年の研究から−
畑中 顯和 (山口大学名誉教授)」(2005年 5月27日)
第9回 COE昆虫科学セミナー 「蝶の蛹の色彩決定に関与する環境要因」
平賀壯太博士(京都大学生命科学研究科)(2005年9月9日)
第10回 COE昆虫科学セミナー 「Biological Control: Do we need one or many species of natural enemies?」
Dr. William W. Murdoch (Univ. of California, Santa Barbara)(2005年9月22日 予定)
第11回 COE昆虫科学セミナー 「Microbial control of arthropod pests and disease vectors in Africa」
Dr. Nguya K. Maniania (The International Centre of Insect Physiology and Ecology (ICIPE), Kenya) (2005年9月26日 予定)
第2回学生セミナー
2ndCOESS
「昆虫の嗅覚中枢の抑制性神経連絡」
岡田龍一 COE博士研究員 昆虫生理学分野)(2005年7月12日)
第3回学生セミナー
3rdCOESS
「節足動物の生態系機能」〜森林土壌生態系における根・菌類・土壌動物の相互作用についての野外研究〜
菱 拓雄 COE博士研究員(森林生態学分野)(2005年9月12日)
第1回COE昆虫科学講演会 「虫の見る目・虫を見る目」
鳥飼否字(推理小説作家)(2005年 7月 2日)
第1回昆虫COE
フィールド教育プログラム
「芦生の森の樹木をめぐる植食者たち」
(京都大学フィールド科学教育研究センター芦生研究林、2005年7月9-10日)
第2回昆虫COE
フィールド教育プログラム
大学院生による「昆虫科学とフィールド教育シンポジウム」
(秋の京都で語り合おうin上賀茂試験地)(2005年9月12-14日)

お知らせ
第2回国際シンポジウム「昆虫科学が拓く未来型食料環境学の創生」を10月31日(月)から11月2日(水)まで3日間にわたって芝蘭会館にて開催予定.

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発行元:昆虫COE事務局
問い合わせ先:
京都大学大学院農学研究科応用生命科学専攻化学生態学分野(TEL 075-753-6307)

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