京都大学大学院農学研究科 21世紀COEプログラム 昆虫科学が拓く未来型食料環境学の創生pic
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ニュースレター

ニュースレター
NO.5 (February 6, 2006)
第2回COE 国際シンポジウムを振り返って

講演風景
講演風景
2005 年の10 月31 日から11 月2 日の3日間にわたって、21世紀COE「昆虫科学が拓く未来型食料環境学の創生」の第2回国際シンポジウムを開催致しました。第1回目の国際シンポジウムは同年3月に開催しており、この時は“ Development and Metamorphosis”(発育と変態)という生理学の重要課題についてのかなり専門的色彩の強い内容でありました。それはそれで、昆虫と魚といった系統的に全く異なる動物の発育と変態について相互に討論するなど、新たな融合にチャレンジしたものとして、大変意義深いものでありました。今回のシンポジウムは、より総合的なものであり、COE の今後の研究展開に向けてのパースペクティブを議論するという、言わばCOEの立ち上げとしての意義を持たせたものでありました。すなわち、統一テーマを拠点名と同様にし、「環境適応」、「情報伝達」および「構造と機能」という3つの柱それぞれに関連したセッションを設定し、それぞれのサブグループに属するメンバーでオーガナイズするというスタイルをとりました。各セッションで、一流の国内外の研究者を若干名招聘するとともに、拠点の教員による発表のみならず、ポスドク研究員や大学院生にも発表を行ってもらいました。いわゆるオーソリティーのみによるシンポジウムにならないように工夫しました。とりわけ、博士課程の大学院生による発表はシンポジウムへのデビューとして、教育的効果をねらったものでありました。また、講演のみならず、ポスターセッションも設け、大学院生による38課題の多くの発表があったこともこのシンポジウムを幅広く豊かなものにしました。

内容に関しては各セッションオーガナイザーの報告に譲りますが、全体として100名を優に超える参加者があり、活発な議論もなされ、本シンポジウムはきわめて成功裡に終了致しました。シンポジウム期間中に招聘した外国人研究者との論議を通して、今後の共同研究のプランが出たりで、本拠点の今後の国際交流における良いきっかけになったものと思われます。国際交流の展開や持続において何よりも重要なことは相互の信頼関係でありますが、後に何人かの外国人研究者から戴いた手紙に寄れば、シンポジウムのレベルの高さを賞賛しているものばかりであり、強い信頼を得ることができたものと思われます。今後、本シンポジウムが打ち上げ花火で終わらないように、粘り強い継続性と発展こそが必要であることは言うまでもありません。今後の更なる展開に期待するものです。
(拠点リーダー 藤崎憲治)

Session-1 “Offense-defense interaction in insect-plant system”

第1 日目には、情報伝達グループを中心とした『Offense-defense interaction in insect-plant system』を、生態情報開発学分野の刑部正博先生と企画した。このセッションでは、様々な昆虫と植物の相互作用の中から、昆虫由来エリシターの観点から研究に取り組む研究者に講演をお願いした。まず、セッションの始めに、国際シンポジウムに参加する学生に対して、各講演者の経歴と研究内容を日本語も交えて紹介した。比較的好評だったと、自画自賛している。しかし、正直に告白すると、ここで用いた色彩豊かで明快なスライドは、私が作ったわけではない。講演者の主要論文をもとに、学生が想像力を発揮した結果である。お陰で、全体に判りやすい講演になったと思っている。引き続き、オレゴン州立大学のLol Cooper 博士、名古屋芸術大学の菅野紘男博士、そして私が講演を行った。若手女性研究者であるCooper 博士の講演では、ゾウムシの卵の表面にある化合物bruchin が植物に腫瘍を誘導する分子機構の講演であった。九州農業試験場を退職され、現在名古屋芸術大学で教鞭をとっておられる菅野紘男博士からは、ウンカに吸汁されるとその唾液中に含まれる物質によりイモチ病菌に対する抵抗性が誘導されるという講演を賜った。エリシターは同定されていないものの、興味深い現象である。午前中の最後に、植物に揮発成分を誘導する昆虫由来エリシター volicitin の幼虫体内における生合成と分解、植物に対するエリシターの構造・活性相関について私のグループ研究を発表した。午後に入り、エリシター研究における第1 人者であるペンシルベニア州立大学のJames H. Tumlinson 博士によるvolicitin 生合成酵素の探索及び、同種植物間に働く植物揮発成分の新たな役割(プライミング)について最近の動向を講演された。Tumlinson 博士は2005 年国際化学生態学会でのSilver Medal Award の受賞者である。世界最先端の研究の一端を、本COE 国際シンポでも披露して頂けた。また、エリシター研究とは若干分野が異なるが、高感度な昆虫の触角を用いたバイオセンサーの研究とその爆薬探知への応用を試みているペンシルベニア州立大学のKye Chung Park 博士の講演には驚かされた人も多いだろう。Park 博士は嘗ての私の同僚である。1998 年から、バイオセンサーの研究を始めていたが、僅か7 年で応用可能な段階まで発展させた彼の努力と、発想の奇抜さは学ぶべき点が多い。米国における研究者のスケールの大きさを感じ取って欲しい。

Tumlinson博士による講演
Tumlinson博士による講演
続いて、今回の国際シンポジウムの主役と位置付けた情報伝達クループのポスドク・博士課程学生による発表が行われた。発表者は、吉永直子(化学生態学分野 D2)、笠井敦(生態情報開発学分野 D3)、奥圭子(生態情報開発学分野 D3)、野下浩二(COE 研究員)そして小倉岳彦(生物調節化学分野 D1)である。生物調節化学分野の中川好秋先生が司会であった。講演時間は1人15〜20 分程度と短い時間であったが、充実した内容が聴けた。まず、吉永さんがハスモンヨトウ体内におけるvolicitin 生合成を窒素代謝とアンモニア解毒という新たな観点から捉えた研究を発表した。次に笠井君によりクスノキ−フシダニ−カブリダニ間における系的相利共生の発表,奥さんによる捕食回避と関連したハダニの寄主植物利用,野下君によるダニのフェロモン生合成に特化した酵素についての発表が続き,最後に小倉君が、本COEの短期留学制度を利用してベルギーで行った研究と関連して、日本に持込が制限されている甲虫コロラドハムシに対する脱皮ホルモンアゴニストの作用についての発表を行った。外国からの招待講演者からも様々な質問が飛び、返答に窮した場面も散見されたが、5人にとって良い経験になったであろう。また、特筆すべきこととして、多くの学生から質問が出た点を挙げたい。英語の講演にも拘らず、1日目から多くの学生が真剣に聞き、講演者への質問も博士課程の学生だけでなく、学部生や修士の学生からも多く見受けられた。ポスター会場でも、積極的な姿勢は顕著であった。その結果が、最終日の Harrington 博士による暖かいメッセージになったと確信する。エリシター研究をはじめとする昆虫と植物の相互作用に関する研究の一端に触れることが今回のセッションの大きな目的であったが、世界的な研究者から期待以上の刺激を大学院生・学部学生が感じて貰えたのではないかと感じている。この点からも、本シンポジウムの試みは成功であったように思われる。

国際シンポジウム開催に本格的に関わるのは、私個人にとっても初めての経験であり、更に米国留学時代のボスであるTumlinson 博士を迎えるに当たって大いに緊張した。しかしながら、その準備と本番の運営では、本COE の多くの学生にサポートして頂き、何とか乗り切ることが出来た。いつもながら、京大生の底力を感じた期間であったが,このような学生の底力を如何に搾り出させるか、本COE に課された重要な課題であると強く再認識した。最後になりましたが,本シンポジウムを開催するにあたり,COE 事務局の竹内史子さんや中村好美さんはじめ、ご尽力頂いた皆さんにお礼を申し上げます。
(化学生態学分野 森直樹)

Session-2 “Impacts of environmental change on insects”

このセッションは「環境適応」サブグループのメンバーがオーガナイズしたものであり、近年の最重要課題であると言ってもよい地球温暖化などの環境変動が昆虫の発生動態や群集構造などに与える影響について議論することを目的とするものであった。まず、私が本セッションのイントロダクションを行い、地球温暖化などの環境変動の実態とわが国におけるチョウやカメムシなどの昆虫の北上について紹介した。次に、イギリスのロザムステッド農業研究所のRichard Harrington 博士が、ヨーロッパのサクショントラップ(吸引トラップ)のネットワークにおける講演を行った。実に40年以上にわたるロングタームのデータを提示し、アブラムシ類のフェノロジーと環境要因、とりわけ温度との関係がいかに密接なものであるかを紹介した。例えば、1月から2月にかけての平均気温とサクショントラップでアブラムシの1 種Myzus persicaega が最初に記録される時期との間には見事な負の相関関係があり、近年それが急速に早まっていることが示された。長年にわたるデータの集積がいかに重要であるかを示すものであり、大いに説得力があった。次にカナダ博物館のHugh V. Danks博士が北カナダにおける温暖化の昆虫に与えるインパクトについて講演した。温暖化に伴い昆虫たちが北方に移動するとそこで種間相互作用を通しての生態系の変動が起こるので、将来の予測はなかなか難しいことや、温度だけでなく、日射や湿度といった気象要因がマイクロハビタットに与える影響も大きいという指摘は、示唆に富むものであった。3番目に、わが国における「温暖化と害虫問題」の第一人者である桐谷圭治博士が講演を行った。わが国における地球温暖化と土地利用の変化といった大きな環境変動が稲と果樹のカメムシ類の害虫としての地位にいかに影響したかを力説したものであった。冬季の温暖化がカメムシ類の越冬生存率を上昇させ、近年の多発生をもたらしているとともに、戦後のスギやヒノキの大々的な植林がチャバネアオカメムシ、ツヤアオカメムシ、およびクサギカメムシなどの果樹カメムシ類を増やしたこと、また減反政策が雑草地の増加を通じて稲のカメムシ類を増やし、斑点米の増加につながったことなどが示された。実に説得力のある講演であった。引き続いて、COE のポスドク研究員(昆虫生態学研究室) のDomitry L. Musolin 博士が講演した。ミナミアオカメムシなどの南方性のカメムシが北方に分布拡大をしている実態とそれに際して休眠などの生活史形質における適応性の問題が議論された。彼は休眠生理学の専門家であり、きっちりしたデータに基づく話が展開された。

拠点リーダーと講演者
拠点リーダーと講演者
午後のセッションに入り、博士後期課程の清水健君(昆虫生態学研究室)が亜熱帯性昆虫のオオタバコガの温帯への適応についての研究発表を行った。蛹休眠により温帯でも越冬できるポテンシャルはあり,現にかなり北まで分布拡大しているもののまだ不適応であること、日本の中で休眠性や休眠発現性において若干の地理的変異が存在することなどを示す力作であった。引き続いて、本COE のメンバーである山崎理正博士(森林生物学研究室)が、近年北方に分布を拡大し、ナラ菌のベクターであるため、ナラ枯れを引き起こすことで問題視されているカシノナガキクイムシに関する講演を行った。地球温暖化がカシノナガキクイムシの北方や高地への分布拡大につながっているという説の紹介のみならず、本種のナラ類への加害パターンの比較を調べた研究に基づき、彼らの加害パターンの樹種による違いがナラ菌に対する感受性の違いをある程度は説明することを明らかにした。このような研究は今後のナラ枯れの研究において、きわめて重要であるものと考えられた。

最後の講演は本COE のメンバーである武田博清博士(森林生態学研究室)にお願いした。温暖化などの問題を直接扱ったものではなかったが、森林の土壌動物群集の構造が気候的な勾配につれてどのように変化するのかを、とくにトビムシ類を中心に論じたものであった。温帯と熱帯のフィールドでの調査により得られた膨大なデータに基づく研究成果であり、圧倒されるものがあった。

以上、7人の演者による講演が終了した後、一般討論を予定していたが、時間切れとなって行うことができなかった。しかし、個別の講演の際に設けられた討論時間において活発なやりとりもあり、なかなか盛況であったと言えよう。地球温暖化などの大きな環境変動が地球の生態系に今後どのような影響を及ぼしていくのかは、私たちの生存にも関わる重要問題であるだけに、温暖化などの敏感なセンサーとしての昆虫類の挙動に注目し続ける必要性はますます高まっていくものと思われ、今回のシンポジウムはそのための重要な契機になった.
(昆虫生態学分野 藤崎憲治)

Session-3 “Entomomimetic engineering”

「構造と機能」サブグループが主催したこの分科会の目的は、4 億年の進化の過程を経て洗練された昆虫の構造と機能に学び、そのメカニズムやシステムを模倣して、ロボティクスをはじめとする工学に応用する可能性について論議することにあった。私がまずイントロダクションで、昆虫がいかに簡素にして効果的な生存機械であるかを紹介した。この生存機械のおこなうタスク、センシングと制御系、機械部品の構造と機能は、精密な行動解析と神経行動学、そして生物機械工学によって明らかにされる。そこから得られた様々な知見を、モデルとして記述できれば、テクノロジーとして具体的にロボットに搭載することも可能だろう。昆虫に固有なメカニズムを模倣する「Entomomimetic engineering(昆虫模倣工学)」には、果たしてどのような展開が期待できるのだろうか。京都大学農学研究科の岡田龍一博士(COE ポスドク研究員)が司会をした午前中の第一部では、昆虫が環境から有用な情報をいかに抽出し、行動の制御や意思決定に役立てているかについて、3人の演者が神経行動学の立場から講演した。

英国サセックス大学のNatalie Hempel de Ibarra 博士は、貧弱な視覚解像力しか持たないセイヨウミツバチが、色の情報と明るさのコントラストの情報を相補的に使いながら、効果的に視覚定位をおこなっていることについて発表した。昆虫の複眼には様々な利点があるものの、像を識別する能力はヒトの1/100 にしか及ばない。ミツバチが花の色を学習して密源を探索することは、ノーベル賞を受賞したドイツのカール・フォン・フリッシュの研究で知られている。しかしハチが遠方から接近するとき、目標の視角は小さく、色情報だけでは識別が難しい。2 色からなる同心円の標識を使い、色の明度を変えてハチの識別能力を調べる巧妙な実験の結果、ミツバチは視角が小さい時には(つまり遠方から接近するとき)、むしろコントラストの情報を使っていることが示唆され、神経回路からも裏付けられた。メカニズム上の制約を、複数の情報を巧みに組み合わせることで補う柔軟性は、エンジニアリングにも求められる。

次は、福岡大学理学部の藍浩之博士が、同じくミツバチの「言語中枢プロジェクト」について講演した。ミツバチは巣に戻ると、尻振りダンスで蜜源の位置やその種類を仲間に伝える。この有名なダンス言語については、フォン・フリッシュの発見以来、行動学的側面を中心に解析されてきた。追従バチは、ダンスするハチから蜜源の位置情報を受け取るわけだが、その際、匂い刺激と翅からの空気振動を、触角とジョンストン器官で受容することが前提である。藍博士は、追従バチがダンス言語を解読する脳内機構に注目した。振動と嗅覚の情報の統合について、電気応答の細胞内記録と蛍光色素染色によって調べたところ、統合に関係する神経線維の多くは、ジョンストン器官からのびる神経の投射領域に樹状突起をのばし、なかには可塑的応答を示すものもあった。匂いによる振動情報の調節を脳内機構から解明したこの意欲的な試みは、ダンス言語の本質的解明の第一歩であるばかりでなく、全く異なる感覚の情報までも組み合わせて行動を調節する、昆虫の多才な情報処理能力を示している。

第一部の最後を、「昆虫の触角によるアクティブセンシング」という演題で、九州大学大学院理学研究科の岡田二郎博士が締めくくった。動物が「動機付け」されて、外界の情報を得ようとする積極的感覚が、アクティブセンスである。ワモンゴキブリは長い触角を使って、積極的に周囲の物体の情報を触角で探っている。背中で固定したゴキブリにボールの上を歩かせながら、触角の届く範囲に物体を置くと、ゴキブリはそれに向かって接近する。ゴキブリの移動をボールの下に置いた光学センサーで記録しながら、触角基部の毛板や先端の感覚毛からの情報が脳内でいかに統合され、「物体の方向」の感覚が生じるのかについて、操作実験から推定される神経メカニズムが示された。さらにターゲットを発見するとランダムな触角の動きは規則的なループパターンに変わる。昆虫の「手探り」のメカニズムは巧妙かつ複雑で、解析が非常に困難ではあるが、様々な場面でエンジニアリングに応用できる可能性を秘めている。

午後からの第二部は、京都大学大学院農学研究科の飯田訓久博士の進行で、私と博士課程の小嶋健さん(昆虫生理学分野)が、移動運動補償装置を使った精密な行動解析法を紹介した。誘引や忌避を引き起こす定位行動は、資源を探索する動物にとって最も基本的な行動である。昆虫は、匂いや風など外界からの多様な刺激に反応しながら誘引源にたどり着くが、虫が実際に受ける刺激を時間的、空間的に制御することは非常に困難であった。そこで、昆虫を球体に乗せ、虫が移動しても常にその頂点に位置するように球体の回転を自動制御するサーボスフェアを使い、虫の動きに応じて刺激を制御しながら「バーチャルリアリティー」で仮想誘引源に誘導することで、定位行動のプログラムを検証する方法を編み出した。例えば、チャバネゴキブリは歩行と停止を繰り返しながら集合フェロモン源に向かうが、停止中に匂いを感じて風上に体軸を向ける反射が誘引源への誘導を行っていた。小嶋さんが、微小移動運動補償装置を使って調べたケナガコナダニでは、匂いの時間的濃度変化に応じて、一方向の転回を続けることで、匂い源への誘引が引き起こされることが明らかとなった。このように、昆虫が環境から受けとる情報と行動プログラムとの因果関係を精密に解析することにより、フィールドにおいて進化的に洗練されたセンシングと制御の奥義を知ることができる。

第3部は、同じく飯田博士の司会で、フィールドロボティクスから見た昆虫模倣工学の可能性について3題の講演がおこなわれた。まず、韓国、成均館大学の黄 憲 博士が、「テレロボティック」による精密農業を紹介した。テレロボティックシステムは、操作員(農園主)とコンピュータ、そしてロボットから構成される。画像や環境情報のセンシングとデータ集積は無線通信で遠隔的におこなわれ、ロボットマニピュレータを装着した移動モジュールを無線で操作して作業をおこなう。これにより施設園芸における作物の管理や収穫などの集約的労働を自動化させることが可能となった。このシステムの特徴は、ロボティクスを応用することでセンサーの数に依存せずに効果的なモニタリングが可能な点にある。昆虫模倣ロボットには、センサーを積んで移動しながらデータを報告する「センサーキャリア」としての用途が期待される。

懇親会風景
懇親会風景
最後にこのセッションを、京都大学大学院農学研究科の梅田幹雄博士と博士課程の姜東賢さん(フィールドロボティクス分野)が、昆虫模倣ロボットのレビューと、実験機による歩行試験の結果で締めくくった。東京大学をはじめとする国内の5研究室とアメリカのCWRU, CMU, MIT の3研究室における面談、さらに100 件以上の文献にもとづく調査結果の披露に続いて、昆虫ロボットの応用の可能性が総括された。フィールドロボットの開発は、収穫ロボットやトラクターを中心に進められてきたが、スケールが大きくなると昆虫の堅牢さを生かすことはできず、昆虫模倣ロボットはこのような用途には適していない。ボディーが小さくなると、路面の乱れは相対的に大きくなり、車輪よりも脚、それも四脚よりも六脚による移動が有利になる。それに昆虫を模倣したセンシング系と制御系を搭載すれば、昆虫の利点を生かすことができる。姜さんは「昆虫ロボット.六脚歩行ロボットの基礎研究」で、昆虫の三脚歩行を模倣して動く六脚歩行ロボットを制作し、歩行試験をおこなった結果を報告した。1脚に3個ずつサーボモーターを搭載した26cm 角の六脚歩行ロボットは、赤外線リモコンからのコマンドに応じて動作する。このロボットは現在の1.5kg からさらに小型化され、昆虫のように敏捷に歩き回る予定である。設備のトラブルから、総合討論の時間が消えてしまったことは残念であったが、8人の演者それぞれの講演で、専門を超えた論議が活発に繰り返された。昆虫の構造と機能に学び、そのメカニズムやシステムを模倣したテクノロジーを創ろうとするこのシンポジウムの目的は、充分に達成されたと言えよう。生物に学ぶテクノロジーは、今後ますますその重要性を増してゆくものと思われる。今回は取り上げなかった昆虫の生物機械工学も含めて、昆虫模倣工学という新たな学問分野が生まれる手がかりが得られたものと評価されよう。
(昆虫生理学分野 佐久間正幸)

学生企画「昆虫科学映像コンテスト」

今回のCOE国際シンポジウムにおいて、私には少し不安がありました。それは、国内外の研究者による招待講演と学生によるポスター発表だけでは、一部の限られた人達のためだけのありふれたシンポジウムになるのではないか、ということでした。もちろんそれらはシンポジウムのメインであり、重要なのは当たり前なのですが、私たちの研究に密接に関連した企画でありながら、英語が得意でない学生や一般の方がより気軽に楽しめるような企画も必要ではないかという意見が学生の間で持ち上がりました。そこから生まれたのが、私たちが日頃撮影した昆虫や動物の写真を展示する写真コンテストでした。

企画について検討する過程で、いろいろなマイナーチェンジがありました。一つは、多くの研究室が参加できるよう、撮影対象を植物、さらにはロボットの作品にまで拡げたことです。また、『動き』を見せる作品にも受け皿を広げるために、写真部門と併せて動画部門も設けました。最終的には、総勢約30 名から動画9 本、写真55 枚の応募がありました。写真部門は美しいものだけでなく、決定的瞬間や残酷な光景(昆虫の捕食現場など)を納めたものも数多くあり、バラエティーに富んだものとなったと思います。動画部門は時間制限もなく編集も自由であったため、研究内容がよくわかるような作品、おもしろい作品が集まりましたが、編集技術・説明に改善の余地がみられるものもあったかと思います。

展示を行った感想としては、シンポジウム全日程を通して多くの方に見て頂き、大いに楽しんでもらえたと思います。シンポジウム参加者の投票結果から優秀作品を選び、2日目の懇親会の場で発表を行いました。少々アクシデント(笑)もありましたが、無事終了できたと思います。映像コンテスト写真部門の上位3つ,動画部門の1位および2位を,ここに紹介させていただきました。また,得票上位者の名前・作品名を本ニュースレターの最後に掲載させていただきました。

同時に,本コンテストにおいては,反省すべき点も多く残りました。まず、投票基準が明確でなかったため、どうしても見栄えのいい作品に票が集まり、その作品自体の学術的価値や珍しい動物を写真に納めたという価値は、あまり票に反映されなかったということです。また、私たちの研究に密接に関わる作品が多く集まらなかったことも、少し残念でした。しかし、例えば動画部門一位の「昆虫ロボットvs 人型ロボット」は、映像の面白さに加え六足歩行にどのような強みがあるかという研究的な要素も加わり、非常に興味深い作品でした。コンテスト全体を概観しますと、私たちが始めに考えた『気軽に楽しめるような企画』という目的は達成できたかもしれませんが、『私たちの研究に密接に関連した企画』という面では、さらなる改善ができたのでないかと思いました。特に説明を駆使し編集にまでこだわった動画ならば、目的の両立が容易となるのではないでしょうか。次回以降もこのような企画があるならば、さらに魅力的で内容の濃いものになることを期待します。最後になりましたが、この企画の相談に乗って頂いた昆虫生態学分野の皆様、学生代表の皆様、そしてバックアップして頂いたCOE 事務局に心からお礼を申し上げたいと思います。
(昆虫生態学分野 嘉田修平)

写真部門1位 写真部門2位 写真部門3位
写真部門1位 写真部門2位 写真部門3位
動画部門1位 動画部門2位
動画部門1位 動画部門2位

国際シンポに参加して

国際シンポ第1 日目のSession1 では化学生態学を中心とした講演が行われた。馴染みのない研究が多い中、Tumlinson 博士のプラントトークの話は自分の卒論テーマだったので興味深く聞くことができた。セッションの最後には学生による口頭発表枠が設定され、私もそこで発表をさせていただいた。私にとって今回が初めてでないとはいえ、何も見ずに英語で発表するなんて到底できないので原稿を用意した。発表直前に緊張したものの、本番では落ち着いてゆっくり話すことができた。持ち時間の20 分を超過してしまったかもしれないが、発表に関してはうまくいったと思う。ただその後の質問を聞き取れなかった。もっとリスニング力を鍛えて次に生かしたい。
(生態情報開発学分野 奥 圭子)

私は国際シンポジウムで発表するのが初めてだったのですが、少々緊張したくらいで、とても楽しく、有意義な時間を過ごせました。今でも印象に残ったのは、第2日目の昼食をDanks 博士、Harrington 博士、藤崎教授、刑部助教授そしてMusolin 博士と共に芝蘭会館別館にて取ったことでした。とても楽しくお話することができました。また,懇親会も終わりが近づいた頃、私は妻と共に,Harrington 博士とおしゃべりをして,次にどこへ行こうかと相談しておりました。近くにビートルズのバーがあるからと告げると、いつの間にか私たちはDanks博士、Cooper 博士、Musolin 博士達に囲まれていました。と言うことで、私と妻を含めて6人で、Ringo Bar へ行きました。枝豆の文化を伝えたり、フライドポテトについて議論したり、「鳥居」と「鳥」の区別を説明したり、終始楽しくおしゃべりしていたのですが、気がつけば、妻はDanks 博士に”R”の発音を矯正されていました・・・。今となってはとても楽しい思い出です。
(生態情報開発学分野 笠井 敦)

今回のシンポジウムはテーマが大きかったこともあり、研究対象が同じ昆虫でありながら非常にバラエティーに富んだ内容であったと思います。異なった視点からの研究発表を聞いたり、ポスター発表では情報を交換したりと多くの刺激を受けることができました。特に、英語で自分の研究についてポスター発表をする機会を得たことが良い経験になりました。プレゼンテーションに重点を置いた英会話クラスで、いかにわかりやすく簡潔な説明をするかの訓練をしてきた成果が多少なりとも発揮できたように思います。外国人研究者の方々からも様々なアドバイスをいただき、今後につながる交流ができました。

講演に関しては、生態学分野だけでなく、他分野の研究、特に昆虫の視覚や触覚などに関する研究等多くの興味深い講演を聴くことができました。普段何気なく見ている昆虫の行動に、このような複雑なメカニズムがあったのかと改めて驚かされました。日程が厳しかったのが残念でしたが、それでも限られた短い時間の中で精一杯交流することができたことには満足しています。自分の研究を英語で説明するにはまだ課題が多いことを実感もしましたが、それでも以前より自分の会話力が進歩した感触がありました。また、今回は学生主催のフェアウェルパーティーや写真コンテストなどの新しい試みもありました。パーティーでは非常にくつろいだ良い雰囲気の中で外国人研究者の方と交流できましたし、写真コンテストでは多くの方が参加してくださり、シンポジウムを盛り上げるのに一役買っていたようです。こういった学生主体の試みは、COE を単なる受け身のものにしないためにも非常に有効であると感じました。今後もこのような機会を作れるよう、積極的に学生間のコミュニケーションをはかっていければと思います。
(昆虫生態学分野 山崎 梓)

私は、今回の国際シンポジウムで、本COE 開催の行事で初めての発表の機会を得、シンポジウム1日目のポスターセッションにて、ツキノワグマの樹上採食について研究成果を発表しました。よって、ここでは、発表体験を中心とした感想を述べようと思いました。

これまでの行事で聴衆の一人として参加した際にも感じていましたが、今回の発表では、本COE に参画している研究分野の広さを改めて実感することとなりました。発表を聞いてくださった方の中には、ご自身の研究内容についてお話ししてくださった方もいましたが、分野の違いに驚くことが少なくありませんでした。このように他分野の方が多い中での発表でしたが、思っていた以上に多くの方が私の研究に関心をもってくださったことは、嬉しい驚きでした。また、他分野ならではの異なった視点からの鋭いご指摘もいくつかいただけて、有益な体験だったと感じています。

一方で、発表に際し、些細なことながら改善すべきと思われた点もありました。一点は、今回のポスター発表では、ボード2列の両面を使った計4 面での発表でしたが、2 面が壁に面していて、発表者間の交流がややしづらかったことです。もう一点は、ポスター発表終了時刻が閉館時間間際でやや慌しかったことです。取るに足らない指摘ではありますが、今後に生かされれば幸いに思います。

今後、このような発表の場が、相互の研究紹介に留まらず、他分野間での共同研究の足場となり、本COE のますますの発展を促すことを願います。
(森林生物学分野D1 辻田香織)

ポスター発表風景
ポスター発表風景
COE という大きなチャンスを手にし、本プロジェクトに携わっておられる方々は、実験に、勉強にと、日々研究に励んでおられることかと存じます。日進月歩で進展していく他研究グループの知見にもフォローしていくべく、膨大な論文を前に過ごす時間も少なくないのではないでしょうか?ところで、論文を通して日々向かい合っている他研究グループの研究者 ― こと、海外の研究者について、我々はどこまで知っているだろうか?その人柄、そして、研究に対する姿勢、どのような研究生活を送っているのか等々。そういった、普段直接知る機会の少ない海外の研究者達と実際に会うことができるチャンスもまた、本COE によって受けることができる大きな恩恵の一つかもしれない。幸運なことに、今回のシンポジウムでは海外からの研究者達と、講演の間だけではなく、その「課外時間」においても多くの交流を持つことができた。もちろん、それは彼ら、彼女らの気さくな人柄によるところも大きかったことは言うまでもない。

今回は国際シンポジウムとしては2回目のものである。様々なセミナー、プログラム等を終えたこともあり、学生同士の面識、また、分野間での研究内容への理解も深くなっているようだった。特にポスターセッションでは、第1回に比べ分野を越えた議論が非常に盛んに行われるようになっていたことが印象的だった。今回のシンポジウムは、我々博士課程の学生だけでなく、学部生や修士課程の学生にとっても良い刺激になったことと思う。

本 COE もそろそろ後半への折り返し地点へとさしかかった、というところだろうか。残りのチャンスも可能な限り生かせるように、そしてまた、得たものをしっかりと結実させていけるよう励みたい。
(化学生態学分野 村上 健二郎)

学生主催のFarewell Party
学生主催のFarewell Party
今回のシンポジウムでは今までにはなかったさまざまな経験を積むことができ、非常に内容の濃い3日間であったと思います。はじめに、今回のシンポジウムの運営に携わられた方々に謝意を表します。

私は主にポスター発表に参加しました。前回のシンポジウムにも参加しましたが、2回目ということでさらに進歩した研究内容に言及することができました。コアタイムでは異分野の方々と研究について議論し、多角的な視点から意見をいただくことで、研究に対する視野が格段に広がりました。「昆虫ロボット」という研究について、無意識的に「ロボット」の視点から物事を考えがちなのですが、「昆虫」という原点に戻って研究対象を捉えることを常に頭の中に入れておく必要があると感じました。また、海外から来られた研究者の方々との英語での議論では、自分の英語力不足を痛感しました。しかし、私のつたない英語を真剣に聞いてくださったので、こちらの研究内容を説明するとともに、助言をいただくことができました。このようにさまざまな方々と交流できたことは非常に有意義だと感じました。付け加えると、「研究内容がおもしろい」とビデオ撮影された方がいたのがとても印象的でした。

また、「昆虫科学映像コンテスト・動画部門」において、第1位として表彰していただきましたことをこの場を借りて厚く御礼申し上げます。「昆虫ロボットvs 人型ロボット」と題した動画を「とにかく皆様にわかりやすく」というコンセプトで製作しました。それならばユーモアの要素を取り入れたほうが良いのではないか、そう考えてあのような動画が完成しました。あの動画を見て「ああいうロボットがあるのか」と記憶に留めていただけたら光栄です。

シンポジウムに参加させていただいて、多様な体験をできたのは本当に貴重でありとても嬉しく思います。また、第3回国際シンポジウムで再び皆様にお会いできるのを楽しみにしています。
(フィールドロボティクス分野 M1田中 睦)

講演会およびセミナー開催内容
第2回国際シンポジウム 「昆虫科学が拓く未来型食料環境学の創生」(2005 年10月31 日 . 11 月2 日)
古座川塾 フィールドから未来型食料環境学を考える.(2005 年11 月18 日―21日)
お知らせ
日本農芸化学会2006年度大会 シンポジウム「植物化学因子の生態系多重効果」
(2006年3月28日9:00-12:30)京都女子大学
第11回 IUPAC
International Congress
of Pesticide Chemistry
「Evolution for Crop Protection, Public Health and Environmental Safety」
(2006年8月6日-11日) 神戸国際会議場

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発行元:昆虫COE 事務局
問い合わせ先:京都大学大学院農学研究科応用生命科学専攻化学生態学分野(TEL 075-753-6307)

映像コンテスト集計結果
写真部門(総投票数:65 票)
順位 研究分野 名前 タイトル 得票数
1 昆虫生態学 嘉田修平 花の前、ぴたっ 26
2 森林生物学 木村亜樹 カエルを飲み込もうとする蛇 17
3 化学生態学 竹内史子 美しい? 醜い 16
4 昆虫生態学 藤崎憲治 雨宿り 13
5 森林生物学 山本祐輔 信心深い子鹿 12
6 昆虫生態学 吉本治一郎 蒸し焼き 11
7 化学生態学 鎌田彰 カメムシ洗顔中 11
8 森林生物学 木村亜樹 身を隠したつもりでいるウサギ 11
9 森林生物学 吉川徹朗 大きめキノコ(3) 11
10 森林生物学 木村亜樹 ニホンジカの顔 10
10 化学生態学 桑原先生 ナチュラルハート 10
  次点(11 位以下)  
  氏名 タイトル   氏名 タイトル  
  横井智之 オベリスク   秋山耕治 ウスバシロチョウの配偶行動  
  網干貴子 にらめっこ   森下和路 カメムシの孵化  
  吉本治一郎 ホバリング   吉永直子 やい笑うな。  
  飯田博之 アヅチグモ   今井健介 長い産卵管もよしあし  
  Dmitry Musolin 新たな旅立ち   山本祐輔 オス鹿と恋の季節  
  今井健介 寄生者の繭   西村至央 クヌギに来たチャイロスズメバチ  
  吉永直子 東洋美人        
研究動画部門(総投票数:65 票)
順位 分野 名前 タイトル 得票数
1 フィールド
ロボティックス
田中睦 昆虫ロボットvs人型ロボット 34
2 生物調節化学 花井陽介 コオロギに毒液を注入する
ヤエヤマサソリ
25
3 昆虫生理 西村至央 サーボスフィア上で
交替性転向反応を示すダンゴムシ
16
4 フィールド
ロボティックス
山田裕介 ロボットコンバイン 11
5 フィールド
ロボティックス
山本祐輔 信心深い子鹿 12
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