京都大学大学院農学研究科 21世紀COEプログラム 昆虫科学が拓く未来型食料環境学の創生pic
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ニュースレター

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N0.6 (March 13, 2006)
「古座川塾」−フィールドから未来型食料環境学を考える−

古座川における水生生物の採取風景1
古座川における水生生物の採取風景1

本COEにおける教育プログラムの目標の一つに、総合的視野を持った人材の育成ということがある.食料・環境問題の解決には高度な専門知識とともに分野を横断する洞察力や総体的な視点が不可欠であり、フィールドでの実地体験はそれらを育成する大きな基盤となる.教育プログラム「古座川塾」は京都大学フィールド科学教育研究センターと連携し,森林から河川,海を含む様々なフィールドで人と自然,自然と自然のつながりに直接触れることにより,今後の研究の新たなモチベーションを得られることを目的として,2005年11月18日〜21日に和歌山県古座川流域にて行われた.

【古座川塾プログラム】
11月18日 フィールド研 紀伊大島実験所
  午後 ガイダンス(紀伊大島実験所所長梅本信也助教授,フィールド研センター長田中克教授)
    講演 「渚の自然史」(人間・環境学研究科加藤真教授)
11月19日 古座川流域
  午前 フィールド実習「水生生物採集」
(フィールド研瀬戸臨海実験所大和茂之氏,加藤哲哉氏)
  午後 第2回 古座川シンポジウム(公開)
講演 「牡蠣の森と心の森」(フィールド研社会連携教授,牡蠣の森を慕う会代表畠山重篤氏);
  畠山氏を囲んでフリー討論
11月20日 古座川流域
  午前 フィールド実習 「テーマ別聞き取り調査」
  古座川の秋祭り (農林産物品評会)
  午後 フィールド実習 「テーマ別聞き取り調査,古座川流域概観」
11月21日 フィールド研瀬戸臨海実験所
  午前 講演 「海洋生物の多様性:NaGISAプログラム」(瀬戸臨海実験所所長白山義久教授)
見学 瀬戸臨海実験所附属水族館

古座川における水生生物の採取風景2
古座川における水生生物の採取風景2
和歌山県古座川流域は熊野の豊かな森を源流とし,自然が多く残る里域を流れて串本湾に注ぐ.森里海連環学をめざす京大フィールド研の温帯域モデルフィールドである.古座川は天然のアユが遡上する清流として知られているが,近年大雨後の濁りの長期化やアユの減少など,環境問題がクローズアップされてきている.今回の「古座川塾」では,河川での生物採集,研究や環境運動の最前線で活躍されている方の講演,流域住民の方への聞き取りなどが行われた.夜は海の幸に舌鼓をうちながら普段は交流できない異分野の方々と親交を深めることができた.

五感を通して得られた「現場」の感覚というものは将来研究を進めていく上で大きな財産となり,新たな発想を生み出す材料となる.参加された皆さんがそれぞれ持ち帰ったものが,その後の有益につながれば幸いである.
(河口域生態学D2 渡邉 薫)

「古座川塾」参加者からの一言

瀬戸臨海実験所附属水族館前にて
瀬戸臨海実験所附属水族館前にて
21世紀COEプログラムの一環で,和歌山県の串本町および古座川町で行われた『古座川塾』に参加しました.初日の加藤真教授による講演「渚の自然史」では,失われて久しい日本の海岸の風景を浮世絵や写真とで示されました.現代の護岸・整理された海岸線しか知らない私にとってはこれらの原風景と現代の風景との違いは驚きであり,これらの風景の違いは江戸時代以前の自然と共生していた日本人と現代の自然を管理・操作しようとする日本人の違いを端的に示しているように感じました.

また畠山重篤先生による講演「牡蠣の森と心の森」も非常に興味深い講演でした.内容はリアス式海岸の''リアス''の語源が川から来ていること,ご自身も含めた漁業関係者による植林活動やその広がり,また森林が海に与える影響の科学的メカニズムなど多岐に渡りました.講演の中で森からの水をダムが堰き止めることによる海や漁業への影響などにも触れ,ダムによる水質汚染が漁業に与えている影響についても痛感しました.  畠山先生は森と海との関係を「森は海の恋人」と呼び,また海の環境を改善に向けて森林の再生と森林が産み出す栄養分を海に伝える河川環境の重要性を説かれていました.このことは未来の食糧増産を考える上で非常に重要なテーマであると感じました.しかし現実問題として,ダムが地域住民の安全を守っていることも古座川に設置された七川ダムを実際に見学することで肌に感じることができました.講演会場では「七川ダムはないほうがいい」といった雰囲気でしたが,ダムには発電以外に治水の役割もあり,撤去するということは現実的ではありません.こうした状況の中で,既存のダムをどのように調節・管理していくのかが,治水事業と海の環境改善との両立を目指すうえで一番重要ではないかと感じました.
(昆虫生態学研究室D3 貴志学)

以前から他分野との交流に興味を持っていた私は常々COEに関連したシンポジウムに参加し吸収できるモノがあれば吸収したいと考えていましたが,時間の都合がつかないため参加できずにいました.今回,バスの増便等によりようやく参加することができました.運営者の方々のご尽力に感謝いたします.

このたび,私はCOE第3回教育プログラム"古座川塾"に参加し,普段の研究活動では出ることのないフィールドに実際に出て,様々な活動を行いました.1日目には,加藤真先生の「渚の自然史」では,日本の渚をめぐる命の営みと文化の変遷について話を伺い,またCOEの活動について厳しくご指摘いただきました.2日目には,我々自ら古座川に入り,そこに棲息する生き物本来の生き生きとした様を観察し,畠山重篤先生の「牡蠣の森と"心の森"」では,漁師の視点から見た牡蠣の養殖における植林の重要性について話を伺い,討論しました.また,3日目には古座川の支流,小川のほとりで古座町の中崎地区の住民の方から,小川を守る取り組みについて話を伺い,古座川と小川の違いを知るために古座川上流にある七川ダムを訪れました.4日目には,瀬戸臨海実験所に場所を移し,白山義久先生の「海洋生物の多様性:NaGISAプログラム」の話で,生物の多様性の重要性について学び,附属の水族館を見学しました.私は以前から「生物多様性を守る意義」について考えてきましたが,生物多様性を乱すことが大きな環境の変化をもたらすことに衝撃を受け,その重要性について再認識すると同時に,研究や仕事に対して真摯に取り組んでおられる方々から普段受けることのできない刺激を受けることが出来ました.この"古座川塾"で森里海連関学が未来型食料環境学の達成への回答を導き出す手がかりとなり,本プログラムがCOEの教育プログラムとして十分な成果を上げたのではなかろうかと思われます.
(昆虫生理学分野M1 藤井 誠一郎)

第3回のCOEプログラムである「古座川塾」に参加させていただきました.1日目は人間・環境学研究科教授の加藤真先生のご講演を聞きました.広い知識をお持ちの方で,「できることはしないといけない.悲観的になっては何もできない.」というお言葉が胸を打ちました.2日目の午前中は古座川で水生生物を観察しました.夢中になって採集し,とても楽しかったです.午後は畠山重篤先生のご講演を聞きました.ご自身の気仙沼での経験を元に森から海まで含めて考えることの重要性をお話になり,古座川流域の方にも伝わるものがあったと思います.3日目はテーマ別フィールド実習ということで,自分の興味を元に地元の方にお話を聞いて学び取ることをしました.私は清流古座川を取り戻す会の会長さんである水上さんにお話を聞き,ダムに関わる問題の難しさを感じました.午後からは古座川沿いを車で上っていき,ダムを見学しました.ダムには汚水が溜まっている状態でしたが,更に上流に行くとダムの影響のないきれいな水が流れており,その姿を見て,古座川が本当に清流として戻ってほしいと真摯に願いました.4日目はフィールド研瀬戸臨海実験所長の白山義久先生のご講演を聞きました.とても穏やかな印象の受ける先生で,生物多様性のお話を中心にされたのですが私自身の研究テーマにつながるところもあり,もっとお聞きしたいと思いました.

普段室内で研究をされている方が多く参加されていましたが,私自身も改めてフィールドに出て現場の方から学ぶことの大きさを感じることができました.今年から研究室に入り,色々な方とのつながりから調査やシンポジウムに参加させていただいて,またそこでも人との出会いがあり,学ぶことがあり,恵まれた環境にいることを感じました.そして様々な分野に触れると自分の知識がないと深く話ができず,自分の未熟さも痛感しました.これからも様々な機会に参加して,物事をいろんな方面から考えられるようになりたいです.このプログラムを通じて出会えた方みなさんに感謝します.
(森林情報D4 尾崎絵美)

外部アドバイザー会議開催報告

拠点リーダーと講演者
拠点リーダーと講演者
昆虫模倣科学という新しい学問分野の創生を目指す本拠点では,平成16年度に発足して以来今日に至るまで,異分野の融合を目指した研究活動や,若手の研究者を育成支援するための様々な教育活動を実践してきた.これらの活動に対して第三者の視点からの意見を伺いたく,昆虫科学及びその関連分野において第一線で活躍されている他研究機関の研究者の方々に依頼し,平成17年度より外部アドバイザーに就任していただいた.2005年12月20日に京都大学において外部アドバイザー会議を開催し,アドバイザーの方々から直接ご意見を頂く機会を設けたのでここに報告する.会議に出席したのは本拠点側から8名(藤崎・西田・梅田・佐久間・刑部・森・山崎・竹内)と本学の事務官1名(西村),及び下記のアドバイザー6名(順不同)である.

鈴木芳人氏(中央農業総合研究センター)
中筋房夫氏(岡山大学)
中馬達二氏(富士フレーバー株式会社)
神崎亮平氏(東京大学)
水波誠氏(東北大学)
細田奈麻絵氏(物質・材料研究機構)

藤崎リーダーによるプレゼンテーション
藤崎リーダーによるプレゼンテーション
出席者各々による簡単な自己紹介の後,本拠点のリーダーである藤崎が,本拠点が命題として掲げる「未来型食料環境学」及び発足後約1年間にわたり行ってきた研究教育活動について報告した.研究活動については,本拠点を形成する3つの研究グループにおいて行ってきた研究及び現在進行中の研究について,具体的なデータを示しながら紹介した.また,グループ内の複数の研究室が連携して立ち上げた異分野融合的な研究,及び来年度から芦生研究林をフィールドにして展開する予定の統合的な研究についてもその概略を解説した.教育活動については,英会話教室・短期留学・国際シンポジウムを組み合わせた人材育成のための総合的な教育の試みや,各地の研究林や実験所などフィールド科学教育研究センターの豊富なフィールドを活用した実体験型教育などを紹介した.

 その後,アドバイザー各氏から自由に意見を述べて頂いた.教育活動については概ね高い評価だったが,研究活動については厳しい意見も頂いた.以下に各氏のコメントを簡単にまとめる.

【中馬氏】掲げている目標はよく分かるのだが,5年間で何をどこまで明らかにするのかという具体的なスケジュールをもう少し明確に提示した方がよいのでは.大学や研究機関のみではなく,一般社会にもアピールできるようなテーマが欲しい.

【神崎氏】3つの研究グループで行っている個々の研究内容は分かるが,それらが今後相互につながっていき,異分野融合的な研究へと発展していくイメージがもうひとつわからない.各グループで推進する研究とは別に,一つの大きな融合的研究テーマを設定した方がよいのでは.全体としては,ミクロからマクロまでおさえてあってよいと思う.

【中筋氏】具体的な成果も当然重要であるが,COEに求められているのはしっかりした拠点の形成.そういう意味でも,実質的に融合した研究目標の設定と実践は不可欠である.マネージメントが大変だと思うが,頑張ってほしい.

【細田氏】拠点が目標としているところの未来型食料環境学というキーワードが見えてこない.これをテーマにシンポジウムを開催してはどうか.異分野間の融合研究を推進するためには言語を共通化する必要がある.教育プログラムの中に組み込めないか.副指導教官制度は評価できる.昆虫科学が産業に与える影響は大きいと思う

【鈴木氏】教育面では異分野間の融合が達成されている.研究面での融合もうまくいっている印象を受けた.ただ,各研究グループでそれぞれ独自に様々な研究を行っているよりは,一つの大きなテーマを設定して重点的に取り組んだ方がよい.農業が産業として生き残るためにも,食料環境学は重要である.

外部アドバイザー会議
外部アドバイザー会議
アドバイザー各氏とも「未来型食料環境学に資するCOE全体として取り組むテーマの設定を」と声を揃えてコメントしておられた.これについて本拠点としては,大規模な防鹿柵設置により大型動物による被食圧を排除し,昆虫及び植物個体群の変化を対照区と比較する調査を来年度より計画している.芦生研究林をフィールドとして展開するこの研究を本拠点の統合的研究と位置づけ,各研究グループが連携して研究を行う予定である.本会議では本計画についても藤崎リーダーが解説を行ったが,まだ計画の段階であり簡略な説明に留めたため,アドバイザー各氏には十分にその意義と内容が伝わらなかったものと思われる.

今回このような会議を開催することにより,アドバイザー各氏から今後の研究及び教育プロジェクトの推進の仕方などについてきわめて有益な助言を頂けた.拠点の事業推進担当者である我々としては有り難かったと共に,本拠点が掲げる目標を達成するには今まで以上の努力が欠かせないものと改めて認識させられた次第である.
(森林生物学分野 山崎理正)

講演会およびセミナー開催内容
第4回学生セミナー
4thCOESS
「Timing of diapause induction and its life-history consequences in Nezara viridula (Heteroptera: Pentatomidae):
Is it costly to expand the distribution range?
ミナミアオカメムシにおける休眠誘導の時期と生活史への影響:分布拡大はコストとなるのか?」
(Dmitry Musolin COE博士研究員 昆虫生理学分野)(2006年3月12日)
お知らせ
日本農芸化学会
2006年度大会
シンポジウム「植物化学因子の生態系多重効果」
(2006年3月28日9:00-12:30)京都女子大学
第11回 IUPAC
International Congress
of Pesticide Chemistry
「Evolution for Crop Protection, Public Health and Environmental Safety」
(2006年8月6日-11日) 神戸国際会議場

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発行元:昆虫COE 事務局
問い合わせ先:京都大学大学院農学研究科応用生命科学専攻化学生態学分野(TEL 075-753-6307)

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